長南です。 私は debian を使っています。他のメールでも言いましたが、debian の cal コマンドは、util-linux のものではなく、bsdmainutils パッケージの cal (本体は ncal) で、両者は、動作やオプションが 全くと言っていいほど、異なっています。そんなわけで、以下に書くことに ついては、実際に試して確認することができませんでした。 ○ DESCRIPTION: The month may be specified as a number (1-12), as a month name or as an abbreviated month name according to the current locales. month は数値 (1-12) で指定することも、 現在のロケールの月名または省略さ れた月名でも指摘できる。 「指摘できる」は「指定できる」のタイポですか。 「... 指定することも、... でも指定できる」というのは、呼応の仕方が ちょっと変な気がします。 「月 (上記書式の month) は、数値 (1-12) でも (指定できるし)、 現在のロケールの月名や省略された月名でも指定できる。」 「... 数値で指定してもよく、現在のロケールの月名や月名の省略形で 指定してもよい。」など。 ○ "Two different calendar systems" 以下のパラフラフは長いので二つに分けます。 ○ Two different calendar systems are used, Gregorian and Julian. These are nearly identical systems with Gregorian making a small adjustment to the frequency of leap years; this facilitates improved synchroniza‐ tion with solar events like the equinoxes. The Gregorian calendar reform was introduced in 1582, but its adoption continued up to 1923. グレゴリオ歴とユリウス歴の 2 つの異なるカレンダー体系が使われる。 ほぼ 同様な体系であるが、グレゴリオ歴の方が閏年の頻度を調整が 少なくなってい る。 この機能は分点 (equinoxes) のような太陽のイベントとの同期を向上さ せている。 グレゴリオ歴への切り替えは 1582 年に始まったが、適用は 1923 年まで続いた。 全訳文中で「暦」が、すべて「歴」になっています。"with Gregorian making a small adjustment" は、'smaller' ではありませんから、「調整が少ない」 のではなく、「ちょっとした調整をしている」。なお、'equinox(es)' ですが、 「分点」というのは、「天球上で、赤道と黄道の交点 (大辞林)」であり、 「春分日」は「太陽が春分点を通過する日」だそうです。ですから、ここでは 「春分と秋分」そのものでしょう。'facilitate' は、「容易にする、楽にする、 促進[助長]する」と辞書にあったので、「促進する」を使いました。 "calendar system" は「暦法」と訳してよいのではないでしょうか。 「太陽暦」「太陰暦」だけでなく、「貞享暦」や「寛政暦」も暦法と 言いますから。ついでにここに書いておきますが、"Gregorian calendar" も "Gregorian calendar system" も、「グレゴリオ暦」で十分だと 思います。"Julian calendar (system)" も同様。 訳例を付けてみます。 「二つの異なった暦法が使用される。グレゴリオ暦とユリウス暦である。 両者はほぼ同様な暦法だが、グレゴリオ暦の方は、閏年の頻度について ちょっとした (or 若干の) 補正を行っており、そうすることで、 春分・秋分のような太陽運行上の現象との同期をより向上させている。 グレゴリオ暦への改定は 1582 年に導入されたが、諸国によるその採用は 1923 年までに渡って行われた。」 'reform' を「切り替え」と訳すのは、わるくないと思います。そう訳すと、 'introduce' が「始まる」になるのもわかります。'adoption' を「適用」 とするのも、後で 'adopt' が使われているところと揃えることを考えると、 その方がよいかもしれません。私の試訳で「改定 (場所によっては、改暦)、 導入、採用」などとしたのは、ご参考までに別の訳し方をしてみたということです。 「改暦」は「採用」の代わりにも使えそうです。場所によってはですけれど。 ちょっと脱線すると、2016 年にサウジアラビアがグレゴリオ暦を採用した という話があります (Wikipedia)。 ○ By default cal uses the adoption date of 3 Sept 1752. From that date forward the Gregorian calendar is displayed; previous dates use the Julian calendar system. 11 days were removed at the time of adoption to bring the calendar in sync with solar events. So Sept 1752 has a mix of Julian and Gregorian dates by which the 2nd is followed by the 14th (the 3rd through the 13th are absent). デフォルトでは、 cal は適用日として 1752 年 9 月 3 日を 使う。 この日以降グレゴリオ歴体系で表示され、 この日より前はユリウス歴 体系を使う。 グレゴリオ歴の適用に当たって太陽のイベントと同期させるため に、 11 日間が削除された。 そのため、1752 年 9 月はユリウス歴とグレゴリ オ歴が混ざっていて、 2 日の後が 14 日である (3 日から 13 日は存在しない)。 問題ありませんが、ご参考までに、「体系」を抜いた訳を挙げておきます。 ここでは 'adoption' を「採用」ではなく「実施」と訳しました。 「デフォルトで cal は、1752 年 9 月 3 日をグレゴリオ暦の実施日 とする (訳注: イギリスにおける改暦)。その日より後は、グレゴリオ暦で 表示され、それより前の日付では、ユリウス暦が使用されるわけだ。 改暦に当たっては、暦を太陽運行上の現象と同期させるために、11 日間が 取り除かれた。従って、1752 年 9 月には、ユリウス暦の日にちと グレゴリオ暦の日にちが混じっており、2 日の後に 14 日が続く (3 日から 13 日は存在しない)。」 ○ Optionally, either the proleptic Gregorian calendar or the Julian calendar may be used exclusively. See --reform below. オプションとして先発 (proleptic) グレゴリオ歴、またはユリウス歴の いず れかを使うことができる。 下記の --reform を参照。 「ユリウス暦の いずれか」と空白が入っています。 'Optionally' は「任意で、随意で、自由選択で」ということですから、 「ユーザがそう望めば」ということだと思います。'exclusively' は、 ここでは「一貫して (他のものは使わずに)」ぐらいの意味。 'proleptic' の訳は難しい。「先発」という訳語は、どこに出ていたのですか。 OED と COD では、こんな風に説明していました。 prolepsis: OED: 1. The representation or taking of something future as already done or existing; anticipation; also, the assignment of an event. a name, etc. to a too early date; an anachronism, prochronism. COD: Anticipation; representation of thing as existing before it actually does or did so; 要するに、1752 年 9 月 14 日以前もグレゴリオ暦で表すことでしょう。 「先取り、先行」も考えられますが、「遡及的」というのはどうでしょうか。 「法は施行日以前に遡及しない」などと言いますから。 「もしそうしたければ、遡及的グレゴリオ暦 (proleptic Gregorian calendar) とユリウス暦のいずれかを一貫して使用することもできる。 下記の --reform を参照。」 このへん、1752 年 9 月や AD 1 年 1 月でどうなるか試してみてください。 当方の cal (ncal) にはない機能なので。 ○ -S, --spam: Display months spanning the date. 当日をまたぐ月分を表示する。 「数ヶ月分、数ヶ月」のタイポですか? debian の cal は、'-S' オプションの意味が違うので、当方では試せませんが、 実際には何ヶ月分が表示されるのですか。 ○ --iso: Display the proleptic Gregorian calendar exclusively. 先発グレゴリオ歴のみを表示する。 「一貫して遡及的グレゴリオ暦を表示する。」 ○ -j, --julian: Use day-of-year numbering for all calendars. These are also called ordinal days. Ordinal days range from 1 to 366. This option does not switch from the Gregorian to the Julian calendar system, that is controlled by the --reform option. すべてのカレンダーで年内日付を使う。 これは通算日 (ordinal days) とも呼ばれる。 通算日は 1 から 366 の範囲である。 このオプション を使うと、 --reform オプションで制御される グレゴリオ歴体系から ユリウス歴体系への切り替えを行わない。 「年内日付」「通算日」は、よい訳だと思います。 "This option does not ..." は、'--reform' オプションの説明と 合わせて見ると、一種の部分否定ではないでしょうか。「このオプションを 使っても、ユリウス暦に切り替えるわけではない」という。 「このオプションは、グレゴリオ暦からユリウス暦の切り替えを行うわけでは ない。それは --reform オプションで行う。」 ○ 上に続くパラフラフ: Sometimes Gregorian calendars using ordinal dates are referred to as Julian calendars. This can be confusing due to the many date related conventions that use Julian in their name: (ordi‐ nal) julian date, julian (calendar) date, (astronomical) julian date, (modified) julian date, and more. This option is named julian, because ordinal days are identified as julian by the POSIX standard. However, be aware that cal also uses the Julian calendar system. See DESCRIPTION above. 通算日を使ったグレゴリオ歴が、ユリウス歴と呼ばれることがある。 これは名前にユリウスを使う日付についての慣習で混乱を 起こすかも しれない。 (通算) ユリウス日付、ユリウス (歴) 日付、 (天文学的) ユリウス日付、(修正) ユリウス日付などがある。 POSIX 標準で通算日 を julian と定義しているので、 このオプションは julian という名 前にしている。 しかし、 cal はユリウス歴体系も使うことを注意して ほしい。 上記の 「説明」 のセクションを参照。 'many' は訳出すべきでしょう。"due to" を「で」ですますのは、 軽すぎると思います。 「通算日を使ったグレゴリオ暦が、ユリウス暦と呼ばれることがある。 これは紛らわしいことかもしれない。日付関連の慣習には、名前に ユリウスを使うものがたくさんあるからだ。たとえば、通算ユリウス日、 ユリウス暦日、天文学的ユリウス日、修正ユリウス日。もっとあるだろう。 このオプションが julian という名前なのは、POSIX 規格で通算日を julian と定義しているからである。とは言え、cal では、暦法の ユリウス暦もやはり使用することを忘れないでいただきたい。上記「説明」 セクションを参照。」 ○ 以下 "julian" まで "--reform val": ○ This option sets the adoption date of the Gregorian calendar reform. Calendar dates previous to reform use the Julian calen‐ dar system. Calendar dates after reform use the Gregorian calendar system. The argument val can be: このオプションはグレゴリオ歴切り替えの適用日を設定する。 切り替 え前はユリウス歴体系を使い、切り替え後はグレゴリオ歴体系を使う。 引数 val は以下のとおり。 「改暦、実施」を使ってみます。原文をそのまま訳せば、「グレゴリオ暦改暦の 実施日」ですが、くどいので「改暦」を省略します。 「このオプションは、グレゴリオ暦の実施日を設定する。改暦以前の日付には ユリウス暦を使い、改暦以後の日付にはグレゴリオ暦を使う。引数 val には 以下のものが使える。」 ○ · gregorian - display Gregorian calendars exclusively. This special placeholder sets the reform date below the smallest year that cal can use; meaning all calendar output uses the Gregorian calendar system. This is called the proleptic Gre‐ gorian calendar, because dates prior to the calendar system's creation use extrapolated values. · gregorian - グレゴリオ歴のみを表示する。 これは cal が使用でき る最小の年を、切り替え日以前に設定する 特別な代替物である。 つ まり、すべてのカレンダー出力はグレゴリオ歴体系を使う。 これ は、カレンダー体系の開始日以前では外挿値 (extrapolated value) を使うので、 先発グレゴリオ歴と呼ばれる。 'placeholder' とか 'extrapolate' とか訳すのが難しいですね。 前者は、普通は「仮なんとか」と訳すのですが、ここでは改暦実施日の 代わりに置く単語ということなんでしょう。「引数、値」とするより なさそうです。 「一貫してグレゴリオ暦を表示する。この gregorian という 特別な値は、cal が使用できる最小の年度以前に、改暦日を置く。 そうすれば、カレンダーの出力のすべてでグレゴリオ暦を使うことに なるわけだ。これは遡及的 (proletic) グレゴリオ暦と呼ばれる。 グレゴリオ暦が作成されたときより前の日にちでも、グレゴリオ暦で 計算した値を使うからである。」 "etrapolated" で苦しみました。「外挿」というのは、普段使わない 言葉で、私には意味が分からない。「グレゴリオ暦で計算した値」には、 「グレゴリオ暦で計算した推定値、見立ての値」も使えるかもしれません。 ○ · julian - display Julian calendars exclusively. This special placeholder sets the reform date above the largest year that cal can use; meaning all calendar output uses the Julian calendar system. · julian - ユリウス歴のみを表示する。 これは cal が使用できる最 大の年を、切り替え日以降に設定する 特別な代替物である。 つま り、すべてのカレンダー出力でユリウス歴体系を使う。 「一貫してユリウス暦を表示する。この julian という特別な値は、 cal が使用できる最大の年度以後に、改暦日を置く。そうすれば、 カレンダーの出力のすべてでユリウス暦を使うことになるわけだ。」 ○ -w, --week[=number]: Display week numbers in the calendar (US or ISO-8601). カレンダーに週番号を表示する (US または ISO-8601)。 「注意」を読まないと、「US または ISO-8601」の意味がわかりません。 'number' には何を指定するのでしょう。US や ISO-8601 を指定 するんでしょうか。それだと、number という感じではないですね。 では、週番号を指定して、その週番号を含む月のカレンダーを表示させる のでしょうか。US 式か ISO-8601 式かの指定は、'-s', '-m' に 任せて。実際にはどうなっていますか。 前者ならば、「number には US または ISO-8601 を指定する。 「注意」セクションを参照」と補足したほうが、親切だと思います。 後者の場合は、カッコ内は「US 式、または ISO-8601 式。「注意」 セクションを参照」でしょうか。その場合、'number' の説明が 訳注として必要だと思います。 ○ Single string parameter から: ○ Specifies timestamp or a month name (or abbreviated name) according to the current locales. 現在のロケールに基づいて、タイムスタンプ または 月名 (または月の 省略名) を指定する。 「タイムスタンプ」って何ですか。"Tue Aug 6 11:27:15 JST 2019" みたいなものですか。 ○ the special placeholders are accepted when parsing timestamp, "now" may be used to refer to the current time, "today", "yes‐ terday", "tomorrow" refer to of the current day, the day before or the next day, respectively. タイムスタンプを解析する際に、特別な別名も指定することができる。 "now" は現在時刻を指定するのに使われる。 "today", "yesterday", "tomorrow" は、 それぞれ、当日、前日、明日を指定する。 'placeholder' は、やっぱり難しいですね。'accept' も難しい。 「... 解析する際に ... 指定することができる」というのは、言葉の 続きがちょっとおかしい気がします。解析する際に指定するわけでは ありませんから。'refer' は「指定する」というより、「指す、意味する」 ぐらいだと思います。 「タイムスタンプの解析では、特定の単語をタイムスタンプの代わりに 受け入れる。"now" は現在時刻を指すのに使うことができる。 "today", "yesterday", "tomorrow" は、それぞれ当日、前日、 明日を意味する。 「タイムスタンプ代わりの特定の単語が有効である」「単語を認識する」 なんかも使えるかも。 ○ Two parameters (e.g. 'cal 11 2020') から: Denote the month (1 - 12) and year. 月 (1 - 12) と 年 を指定する。 実際上の意味には問題がないので、これでもよいのですが、'denote' は、 「指定する」と訳さない方がよいのではないかと思います。"Two parameters denote the month and year." ということでしょうから。 ○ Three parameters (e.g. 'cal 25 11 2020') から: Denote the day (1-31), month and year, ... If no parameters are specified, the current month's calendar is displayed. 日 (1-31)、月、年 を指定する。... 引数を指定しない場合、当月のカレンダーが 表示される。 'denote' については、上で言いました。 「引数を指定しない場合」には「引き数をひとつも指定しない場合は」と 「ひとつも」や「全く」を入れるべきだと思います。「当月」は「今月」 の方が普通かもしれません。もちろん、どちらもありますが。 この最後の文は、パラグラフを変えるべきだと思うんですが、原文がそうなって いないので、仕方がありません。 ○ NOTES から: The week numbering depends on the choice of the first day of the week. If it is Sunday then the customary North American numbering is used, where 1 January is in week number 1. If it is Monday then the ISO 8601 standard week numbering is used, where the first Thursday is in week number 1. 週の番号付けは、週の初めの日の選択に依存する。 日曜を週の初めの日とし て、慣例的な北アメリカの番号付けを使っている場合、 1 月 1 日が週番号 1 となる。 月曜を週の初めの日として、ISO 8601 規格の番号付けを使っている 場合、 最初の木曜日が週番号 1 となる。 "where 1 January is in week number 1" などの 'in' に注目して ください。 「週番号は、週の最初の日を何曜日にするかで変わってくる。 それが日曜日ならば、北アメリカで一般的な週番号が使われる。その場合、 1 月 1 日のあるのが、第 1 週である。週の最初の日が月曜日ならば、 ISO 8601 規格の週番号が使われる。その場合は、最初の木曜日があるのが、 第 1 週である。」 "info date" の "Date conversion specifiers" の ‘%V’ の説明が 参考になると思います。日本語訳は以下にあります。 http://linuxjm.osdn.jp/info/GNU_coreutils/coreutils-ja_153.html#Date-conversion-specifiers ○ Alternative calendars, such as the Umm al-Qura, the Solar Hijri, the Ge'ez, or the lunisolar Hindu, are not supported. ウンム・アルクアラー歴、太陽ヒジュラ歴、ゲエズ歴、 太陰太陽ヒンドゥー歴 といった 他のカレンダーはサポートされていない。 ヒジュラ暦というのは、本来太陰暦でしょう。としたら、イスラム教徒の使っている 太陽暦という意味で「ヒジュラ太陽暦」ではないでしょうか。それに合わせると、 ヒンドゥーの方も、「ヒンドゥー太陰太陽暦」。まあ、太陽や太陰を前に出すのと、 後に付けるのと、どちらが一般的な言い方なのかということですが。 Web によれば、"Umm al-Qura" は「ウンム・アルクラー暦」と読むようです。 サウジアラビアの公式暦だとか。ゲエズ暦の方は、ゲエズ語というのが、エチオピア およびエリトリアの古典語だそうです (Wikipedia)。エチオピア暦ということか。 -- 長南洋一